液冷技術は「GPUサーバーの安定稼働」にとどまらないメリットをもたらす
AIデータセンターの排熱が“街の暖房”に? 液冷技術で持続可能性に取り組むエクイニクス
2025年05月15日 08時00分更新
現在、データセンター分野でホット(あるいはクール)な話題のひとつが、IT機器を空気ではなく冷却液で冷やす「液体冷却(液冷)技術」だ。高性能化に伴って排熱の量も増えるAI/GPUサーバーを安定稼働させるために、サーバーにもデータセンターにも液冷技術の導入が不可欠になりつつある。
ただし、それと同時に、液冷技術は「データセンター全体の省電力化」や「排熱の有効活用」といったメリットももたらすと、エクイニクス(Equinix)でマネージングディレクターを務めるティファニー・オシアス氏は語る。
オシアス氏は、これから本格化する“AI活用社会”の持続可能性(サステナビリティ)を高めるために、データセンター市場をリードするエクイニクスが取り組むさまざまな取り組みを紹介した。
あらためておさらい、いま「液冷技術」が注目を集める理由
液冷技術がもたらすメリットを理解するために、まずはその仕組みを簡単におさらいしておこう。
データセンターのサーバールーム内に設置されたラックには、多数のIT機器(サーバー、ストレージ、ネットワークスイッチなど)が格納されている。これらのIT機器が稼働すると、内部のチップ(CPUやGPUなど)が発熱する。これらのチップを何らかの方法で冷却しなければ、やがては過熱状態となり、動作が不安定になってしまう(いわゆる熱暴走などが起きる)。
現在、IT機器の冷却は「空気冷却(空冷)方式」が中心だ。サーバーなどのIT機器は、内蔵ファンで機器外から冷たい空気を取り込み、部品の熱を冷やしたうえで(熱を奪ったうえで)、熱くなった空気を機器外に排出する。これにより機器外の空気は熱くなるので、データセンターには大型のエアコンが設置され、サーバールーム内全体の空気を冷やしている。
しかし、近年の高性能なサーバーでは、CPUやGPUの回路の高集積化が進み、発熱量も非常に大きくなっている。そのため、これまでの空冷方式では冷却能力が追いつかなくなりつつある。そこで注目されているのが「液冷方式」だ。
「なぜいま液冷技術が必要とされているのか。それは、AIやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)においては、液冷が必須だからだ。その一点に尽きる」
オシアス氏は「液体の熱伝導効率は、気体(空気)の3000倍も高い」と説明する。「たとえば指をヤケドをしたときは、口でフーフー息を吹きかけたりせず、冷水で冷やすだろう。それと同じことだ」。液体を使うことで、空気よりもはるかに効率的な冷却ができるのだ。
液冷方式の実装として、現在主流となっているのが「直接液冷(DLC:Direct Liquid Cooling)」である。直接液冷対応のサーバーでは、空冷ファンやヒートシンクの代わりに、チップにコールドプレート(放熱板)が貼り付けられている。コールドプレートにはパイプが通っており、ここを流れる冷却液が機器の排熱を回収する。
これに対応するため、データセンターには冷却液(冷水)をサーバーに供給、循環させ、屋外に熱を排出する冷却システムが必要になる。
オシアス氏によると、現在のAIトレーニング環境では、1ラックあたりの消費電力が平均40kWに達している。すでに、エアコンでサーバールーム全体を冷やす空冷方式では対応できなくなっており、リアドアに組み込まれた熱交換器でサーバーの排熱を冷却する方式がとられている。
さらに、次世代のAI/GPUサーバー「NVIDIA DGX GB200」になると、消費電力は「1ラックあたり100~120kW」まで高まるため、リアドア式空冷でも対応できなくなり、直接液冷が必須になるという。
データセンターの省電力化、地域への熱供給といったメリットも生まれる
オシアス氏はさらに、液冷技術のメリットは高発熱化したサーバーを冷却できる点だけではないと強調した。具体的には「エネルギー効率」「高密度実装」「CO2排出削減」「地域への熱供給」といったメリットがある。
デル・テクノロジーズの分析レポートによると、従来型データセンターが消費する電力の30%は、サーバーやエアコンが内蔵する「冷却ファン」が消費しているという。ここに冷却効率の高い液冷システムを採用することで、環境負荷を低減した“サステナブルなデータセンター”に一歩近づく。
また、データセンターの排熱を、地域の暖房熱源などに使うことも考えられる。実際に、エクイニクスでは数年前から、フィンランドのヘルシンキ、フランスのパリ(パリ五輪の競技用プール)などで、地域への熱供給の取り組みを進めている。
現状では、セントラルヒーティングのインフラを備えているヨーロッパの国々が先行している状況だが、「各地域で(熱供給インフラの)準備が整えば、いつでも排熱を熱源として提供できる」と語る。
ちなみに、ここでも「液冷技術には優位性がある」とオシアス氏は説明した。前述したとおり、液体は熱伝導効率が高い=多くの熱を素早く吸収できるので、排熱の損失が少ない。「空冷方式で得られる熱よりも、液冷のほうが10℃ほど高い場合もある」という。
