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「展示会」「マッチング」で終わらせない。SuSHi Techと高輪が示した“次の一手”

北島×ガチ鈴木の最近何してた?

ASCII STARUPの編集長・北島と副編集長・ガチ鈴木が直近の取材で印象に残ったエピソードから、国内外スタートアップのトレンドをゆるっと深掘りしていきます。

海外エコシステムとの接続点として進化したSuSHi Tech Tokyo

北島:東京都が展開するグローバルスタートアップカンファレンスのSuSHi Tech Tokyo 2025はどうだった?

ガチ:去年より明らかに解像度が上がって、すごく良いイベントになっていたと思います。「世界中のスタートアップエコシステムを巻き込むんだ」という明確な意志が見えていて、実際に各国の支援者が来日して、日本のスタートアップと何か仕掛けようとしていた。東京都が描いていた設計思想に近づいてきていると感じました。

「SusHi Tech Tokyo 2025 」のセッション「東南アジア5カ国の有力VC・CVCが語る、エコシステム最新情報と日本企業への期待 」(2025年5月8日実施)

北島:宮坂副知事も、SuSHi Techを海外エコシステム関係者が日本に来る“足がかり”にしたいと話していたね。都の職員さんが世界中を飛び回った成果が出てきたのかも。

ガチ:そう思います。SuSHi Techの前後には、シンガポール、北欧、フランスなどから各国のエコシステム関連の組織が来日して、都内や万博のパビリオンを使ってイベントを開いていました。これはもう、SuSHi Techを中心にした「世界スタートアップエコシステムウィーク」と言ってもいいくらい。

大阪・関西万博 北欧パビリオン「北欧スタートアップデイ」(2025年5月7日実施)

北島:かつての日本にはなかった動き。大企業主導の展示会ではなく、スタートアップが並び、そこに海外の投資家や支援者が来る。世界に出ていけるチャンスになる。

ガチ:関西は「ディープテック」を前面に出していましたし、「ALL Japan Ecosystem Area」では全国のディープテック企業が出展していました。東京都からは水道局が出ていて、社会課題を起点に技術シーズを求めている姿勢が印象的でした。

北島:来場者の反応はどうだった?

ガチ:かなり多かったですね。でも「この人たちは何を目的に来てるんだろう?」と気になったのも事実。TIB(Tokyo Innovation Base)でも感じることですが、これまでのスタートアップ文脈では見かけなかった人が増えて、輪郭がぼやけてきた感もあります。もう少し多くの人に話を聞いてみたいです。

北島:新しい層に、どうやって伝えていくか。我々もアプローチを考えていく必要があるね。

子どもも楽しめる「日本らしい」パブリックデイ

北島:最終日にはパブリックデイもあったとか。

鈴木:子供向けコンテンツが充実していて、まさにお祭りみたいでした。ビジネスデイに企業紹介をしていたブースも、体験型に切り替わっていて、親子連れが楽しんでましたよ。Viva Techのパブリックデイはスタートアップが引き上げてしまうけれど、日本はおもてなし精神で、最後までちゃんとやってるのがいいですね。

北島:アントレプレナーシップやSTEAM教育を意識した設計でもあるよね。修学旅行の見学地にしてもいいんじゃない?

ガチ:都内の小学校を全部招待してもいいくらい(笑)。実際、知り合いも家族連れで来ていて、未来の建物をAIでつくるとか、HAKUTO-Rの月面着陸モックアップを動かすとか、体験要素が豊富で盛り上がっていました。

一年中いつでも利用できるJICAの「海外展開支援」

北島:5月って新年度で各種プロジェクトも始まっていく段階で、我々も審査などに関わったり、意外と忙しい月だよね。

ガチ:そういう話では、SuSHi TechのJICAブースで紹介していた支援が興味深かったです。海外進出に向けた調査に補助金を出してくれて、相談すれば方法や予算も一緒に考えてくれる(参考:JICAビジネス化実証事業)。知られてないけど、ディープテック系スタートアップがけっこう使っているみたい。

北島:実践的な伴走支援はいいよね。調査から現地支援までワンストップ。SuSHi Techのブースでもそういう制度を紹介していたのは的を射ている。

ガチ:「ビジネス化実証事業」は上限4000万円。旅費、傭人費、車両費からセミナー開催費まで幅広くカバーできる。海外調査から本格展開への足がかりにはちょうどいいスキームですよね。

北島:SuSHi Techを軸に、「世界と日本のスタートアップが交差する場」がようやくでき始めた実感があるね。イベントの先に何が起きるのか、来年も楽しみ。

ガチ:はい。単なる展示や発表の場ではなく、次のチャレンジが生まれるような接点になるといいですね。

都心に誕生した実証実験都市「高輪ゲートウェイシティ」

北島前回話していた、高輪ゲートウェイシティのイベントはどうだった?

ガチ:5月13日、14日に開催された「GATEWAY Tech TAKANAWA 2025」に行ってきました。高輪ゲートウェイシティは、JR東日本をはじめ大企業やスタートアップ、さらにはグローバル企業も巻き込んで、未来の都市や新産業をつくる“実証実験都市”を目指している場所。今回のイベントは、その構想を示すお披露目も兼ねたカンファレンスでした。

「GATEWAY Tech TAKANAWA2025 」セッション「特別セッション TAKANAWA GATEWAY CITYを拠点としたグローバルなスタートアップエコシステム」(2025年5月13日実施)

北島:構想だけじゃなく、もう施設も動き始めているんだよね?

ガチ:はい。「TAKANAWA GATEWAY Link Scholars’ Hub(LiSH)」という施設がすでに稼働していて、インキュベーション、コラボレーション、シェアオフィス、ラボが一体となった複合空間になっています。シンガポールのスタートアップも入居していて、都市のど真ん中でグローバルとつながりながら研究・開発・実証までできる仕組みが整っている。これはかなり画期的です。

北島:日本橋にあるBeyond BioLAB TOKYOとか、既存のシェアラボもあるけど、海外との比較で聞くのは、ラボの規模レベルが違うってこと。LiSHの場合は、環境・ヘルスケアなどに関する基礎研究に特化させてるわけで。山手線圏内でこの規模は期待していいのかな。

ガチ:まさにそこなんですよ。国内でいえば川崎や神戸などに比べれば、敷地面積、規模で劣る部分もあるけど、「この立地で」、「コラボできるラボ」があるというのはすごく意味がある。研究者やスタートアップにとってアクセスのしやすさは大事な要素ですからね。

THE LINKPILLAR1 NORTH 6Fの「Lab」フロアマップ

北島:「微生物」「植物」「水性生物」という研究テーマに絞っているのもユニークだよね。都市環境やサステナビリティに関わる領域にフォーカスしている。

ガチ:そうですね。都心のシェアオフィス型インキュベーション施設って、どうしても交流中心で、短期利用になりがちでした。出入りが激しくて、腰を据えて研究や開発をするには不向きだった。でもLiSHは、じっくり研究から事業化まで見据えて使える場所になっている。個人的にもすごくうれしい動きです。

北島:今後は研究開発系のスタートアップにとって、都心でも活動拠点を持つ選択肢のひとつになりそうだね。グローバルとつながるハブにもなり得るし。

ディープテックの時代は来るのか?今こそ“次の一手”を考えるとき

北島:最近は「これからはディープテックだ」と言われることが増えてきたけれど、いろいろな動きを見ていると、まだまだ試行錯誤なところがあって、そろそろ“次の手法”が求められているよね。

ガチ:R&Dや知財を起点にビジネスができるプレイヤーを、もっと増やしていく必要がありますね。最近注目しているのが「サロゲート型起業」です。自分自身が研究者じゃなくても、大学や企業が持つ技術を見つけてきて、それを事業化していくスタイル。技術開発に特化した人と、ビジネスに特化した人がタッグを組むかたちです。ディープテック分野でも現実的な手法になっていくんじゃないでしょうか。

北島:確かに、イノベーションを起こす前のアントレプレナーシップ、つまり「起業する力」がないと技術もうまく活かせない。そういう意味では、アントレ教育もディープテックにおいては本当に大事だよね。

ガチ:そうなんです。学生や研究者、大学の先生など、これまでスタートアップとは縁遠かった層に、もっとアントレプレナー的な発想を届けていく必要があると思う。ボトムアップで動く文化やトレンドが根づいてくれば、日本のディープテックももっと面白くなっていく。そのためには、我々メディアや支援者側が、しっかりと空気をつくっていかないといけないなと思っています。

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