対抗馬は中国勢の「Kling」
一方、比較対象に挙げられるのは中国勢の「Kling」です。5月29日にリリースされた最新モデルの「Kling v2.1」は高い評価を獲得しています。ただし、サービス通貨のクレジットを大量に使うので、月額80.91ドル(約1万2000円)のPremierプランに加入する必要が事実上前提にはなっています……。Premierプランでも8000クレジットが付与されるのですが、最高品質の「Kling v2.1 Master」で100クレジット、「Kling v2.1」で35クレジット消費します。それでも無限に使えるプランはなく、Masterでは80回しか使えないため、1回につき1ドル(約145円)近くかかる計算です。画像サイズは多数のものから選べますが、長さは5秒が基本です。
ただし、Klingは3D空間を認識させる技術「3D VAE」という独自のアーキテクチャーで開発されており、その能力の高さから、クオリティーは非常に高く、Veo 3とKlingを両方見ると、どちらがいいとは簡単には断定できません。
先ほどの明日来子さんのカメラ始点を切り替えるという動画を作成してみましたが、Kling 2.1 Masterで生成した動画は、キャラクターを失うことなく、街全体のシーンへと移行しています。このカットはVeo 3では作り出せませんでした。
一方で、背後に飛行機が飛ぶシーンでは、飛行機の出来が微妙で、画面外から登場するオブジェクトといったものは、それほど得意ではないようです。何度か試して、画面サイズを小さめにしたものでは成功しました。それでも、飛行機に合わせて風が起きている様子はほとんど描写できていません。得意不得意が存在するようです。
グーグルは急激に動画AIで急激にその能力を引き上げてきています。だんだん技術情報を公開しなくなってきているため、技術背景を探ることが難しくなっていますが、YouTubeを持っていて、学習素材となる動画に困っていないというのが何よりも大きな点でしょう。もちろん、独自の学習アルゴリズムの開発は進めているのは間違いないでしょうが、大量の動画の学習という“量”によって他企業を圧倒しているという印象です。
残念ながら、2024年12月に発表されたOpenAIの「Sora」は、相変わらずまったく技術的に追いつけていません。
「AIだけのハリウッド映画」はまだ先
動画AIは、広告映像や短編映画といった時間を限った使い方では使われやすい状態になりつつあります。
Google I/Oで紹介されましたが、映画「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー監督は、Veo 3などを開発するグーグルAI子会社のDeepMindと合同で、動画生成AIを使った短編映画を作るベンチャーグループ「プリモルディアル・スープ」を立ち上げました。
制作中の映画タイトルは「アンセストラ」。子どもをテーマとして、フィクショナルな撮影が不可能なシーンを実写と合成する形で作る内容になるようで、今月開催される映画祭で発表されます。予告編を見る限り、実際の撮影が難しそうなSFXシーンに多用されているようにも見えます。
▲Google I/Oで発表になった「ANCESTRA」のメイキングと予告編
ハリウッドへの浸透も始まっているようで、コンセプト開発やプリビズなどに試されはじめているようです。ただし、映画に本格的に使えるかというとまだまだのようです。
Veo 3であっても、現状は一貫性の欠如がまだ弱点と言えます。Flowは競合が導入し始めている「リファレンス機能」を持たず、「このキャラクターで動画を作って」と指示することはできません。表現の品質は高くても、プロンプトによる指示だけではコントロールが難しいため、Veo 3だけで映画製作をするのは難しいという結論になるでしょう。AIだけで作られた「ハリウッド映画」の登場にはもう少し時間がかかるのではないでしょうか。

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